東京高等裁判所 昭和49年(う)587号 判決
被告人 倉沢猛
〔抄 録〕
ところで、交差点に進入しようとする自動車の運転者は、交差道路の交差点直前に一時停止の道路標識および道路標示が存在する場合には、いちおう、右交差道路から交差点に進入しようとする車両は、交通法規にしたがって一時停止をする旨信頼することが許されるけれども、そのことから直ちに、右一時停止をしないで交差点に進入する車両との衝突を回避する義務をまったく免除されるものではなく、その場合の具体的状況に応じた右衝突回避義務を負うものであって、右義務を怠った場合には信頼の原則が適用されないことはいうまでもない。
これを本件についてみると、本件交差点は、被告人の進行した道路からは左右の見とおしがきかず、道路交通法第四二条第一号により右交差点に進入する自動車には徐行義務があるのみならず、右道路の交差点の手前には「徐行」の道路標示が施されてあって、右交差点においては、とくに、交差道路からの車両と出合頭の衝突をする危険があることが明示されていたのであるから、被告人としては、右交差点に進入するに際しては、交差道路からの車両との衝突を回避するために、必ずしも道路交通法にいう徐行の程度にまで減速すべきではないとしても、相当程度の低速度で進行するとともに、左右の安全を十分に確認すべき注意義務があったというべきであるのに、被告人は、右注意義務を怠り、時速三〇キロメートルという必ずしも低速度といえない速度で、しかも、交差点のやや手前の交差道路に対する見とおしが殆んどきかない地点で交差点の安全をいちおう確かめただけで、その後は、まったく交差道路に対する注意をしないで、右交差点に自車を進入させたものであって、右被告人の行動に信頼の原則を適用すべき余地はないものといわなければならない。
(真野 吉川 竹田)